この世界は常に二つの価値観に翻弄され、
汚され蹂躙される。
　何故なら人間の内なる世界に常に存在し、
分裂と併合を繰り返す存在こそ光と闇であり、
それは「愛・憎しみ」「希望・絶望」「正義・悪」
という価値観に準ずる事を人に強いる。
　強いられた仮初の価値観を、人は個の確立に利用し、
小さな自我を形成する。それが自らの意思であるかのような
錯覚を個性と呼び、派閥と呼び、人種と呼んだ。
　全ての争いの根源である。
　
　これらの価値観の源を我々は「混沌」と呼ぶ。
分裂も併合もしない純粋な存在。
　何者にも属さない大いなる意思。
精神世界に渦巻く影のような存在でありながら、
幾つもの次元に同時に存在し、世界に安定を与えている。
　
　人はこの力を手に入れるために幾つかの実験を繰り返した。
闇が光と融合する瞬間を捉えようとする魔術師。
フラスコの中に小人を創造しようとする錬金術師。
そして、
世界に破壊と再生を同時に生み出し、混沌を作り出そうとする者達。
　手法は様々であったが、どれも成功はしなかった。

ある日、無名の魔術師がある事に気がついた。
「もしもこの方程式自体が間違ってるとしたら？」
闇と光　という関係性。
この対立関係を利用して混沌を生み出そうという方程式。
もしも、闇と光が対立関係ではないとしたら？
　無名の魔術師はある実験を開始した。

４つの因子。

　無名の魔術師は、闇に対応する価値観、
光に対応する価値観を見出し、自分の住む町に
巨大な魔法陣を描き、儀式を始めた。
　４つの因子が交差し、町は”無かった事”になった。
紛れも無い混沌を、無名の魔術師は手に入れたのだ。
　そして理解する。
この世界の方程式を。

　４つの因子のうち、光と闇以外の因子を、
我々人間が理解するのは不可能とされている。
　何故なら混沌とは人間の価値観に合わせた基準値を
持ち合わせていない。人間に理解させるために
作られた因子ではないからだ。
　
　混沌を手に入れた無名の魔術師はその後、
いくつもの実験を重ねた。
　そしてついには、国そのものを”無かった事”にするまでの
大いなる力を手に入れたという。
　この魔術師の名は―

「という内容でして。いかがいたします？」
「何者だこいつは？」
「はい。ルーン占術師のようでして」
「占い師？フン、アップデート様の身辺を
嗅ぎまわってるシーフもこいつの仲間か？」
「おそらくは・・」
「邪魔だな。消せ」
「はい。ではボマー様に？」
「誰でもいい」
「かしこまりました」

　森の中から陽気な歌声と笛の音が聞こえる。
美味しそうなノブタのスープの香りが、
あたり一面に広がっていた。
　その香りに、もしくは陽気な音につられてか、
邪悪な影が、森へと近づいていた―

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